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京都地方裁判所 昭和32年(ワ)939号 判決 1963年2月25日

被告 西陣信用金庫

理由

別紙目録記載の不動産がもと訴外木坂深の所有に属し、後昭和二八年一〇月八日同訴外人から原告に対する所有権移転登記が経由せられたこと、被告西松義一が右不動産を昭和二二年一二月二二日右訴外人から代金六〇万円で買受けたと主張し、右訴外人を被告として右不動産についての登記手続請求の訴(京都地方裁判所昭和二八年(ワ)第一、一〇八号)を提起し、右事件が同年九月二九日終結の口頭弁論に基づき同年一〇月一五日被告西松義一(右事件の原告)勝訴の判決の言渡があり、その後その判決が確定し、被告西松義一が昭和三一年一〇月二九日京都地方裁判所において右判決についての原告に対する承継執行文の付与を受け、これに基き同月三一日本件不動産について別紙目録記載(ニ)の(イ)の所有権移転登記(京都地方法務局昭和三一年一〇月三一日受付第三四、四六〇号所有権移転登記(原因昭和二八年一〇月一五日京都地方裁判所判決に因る、取得者被告西松義一))を受け、更に被告西陣信用金庫を権利者とする同(ロ)の仮登記(同地方法務局日受付第三四、四六一号始期付所有権移転請求権保全仮登記(原因同年一〇月三〇日始期付譲渡担保契約、権利者被告西陣信用金庫))を経由したことは、いずれも原告と被告西松義一の間においては争のないところであり、被告西陣信用金庫の関係においては、同被告が右仮登記を受けたことは争がなく、その余の事実は原告と被告西松義一との間で争がないことによりこれを認定する。そうして以上の事実関係によれば前記訴外人は、本件不動産を昭和二二年一二月二二日被告西松義一に対し代金六〇万円で売渡したことを原因として、昭和二八年九月二九日(前記訴訟の口頭弁論終結の日)現在同被告に対し右不動産についての所有権移転登記手続をする義務を負担していたものであるところ、その後同年一〇月八日原告が右訴外人から本件不動産について所有権移転登記を受けたのであるから、これにより原告は右訴外人の被告西松義一に対する前記登記義務をも承継したもの、即ち判決により確定せられた請求についての、口頭弁論終結後の承継人(民事訴訟法第二〇一条)というべく、従て原告を承継人として付与せられた前記承継執行文は何等違法の廉はなく、よつて右承継執行文に基き為された被告西松義一のための前記所有権移転登記及びこの登記に基き為された被告西陣信用金庫のための前記仮登記もまた何等違法無効のものではない。もつとも、(証拠)によれば、原告もまた昭和二八年八月一五日前記訴外人から本件不動産を買受けたことが認められるので、前記訴外人は本件不動産を原告及び被告西松義一の双方に対し二重に売渡したこととなり、また登記手続を命ずる判決が確定してもこれによりその登記を受けたのと同一の対抗力をその判決の原告に与えるものではなく、更に原告が前記登記を受けた当時は被告西松義一は未だ同被告のための登記を経ていなかつたことはいずれも原告所論のとおりであるけれども、原告自身も前記訴訟の口頭弁論終結当時その所有権移転登記を受けていなかつたのであるからその取得を以て被告西松義一に対抗することができなかつたのであり、従てその後において右登記を受けた原告はこれにより前記訴訟の判決により確定せられた訴外木坂深の被告西松義一に対する債務を承継したものといわざるを得ず、この点に関する原告の所論は採用できない。

更にまた原告は、「未だ右承継執行文の送達を受けないから、右執行文は違法無効のものである。」と主張し、承継執行文の送達がその承継人に対する強制執行開始の要件であることは民事訴訟法第五二八条の定めるところであり、本件承継執行文が原告に送達せられたことは被告等の立証しないところであるけれども、判決に基く登記手続は、いわゆる広義の執行として、その判決の確定又は承継執行文付与のときに債務者の陳述があつたものと看做され、債権者はこれによつてその登記を申請するものであつて、その登記申請に際しては必ずしもそれ以前に承継執行文の送達があることを要しないものと解するのが相当であるから、たとえ本件承継執行文が未だ原告に送達せられていないとしても、これにより右執行文が違法無効のものとなり又は右執行文に基き為された被告西松義一のための前記登記が抹消せられなければならないものでなく、この点の原告主張もまた失当である。

以上説明のとおり、被告西松義一のための本件所有権移転登記にはこれを抹消すべき違法がないから、その違法があり従て又被告西陣信用金庫のための本件仮登記も違法となることを理由とする原告の被告両名に対する本訴請求はいずれもその余の争点について判断する迄もなく、失当………。

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